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「左わき腹・・・に、回し蹴り!」
ヒュンと、その言葉と同時に“右わき腹”に凄まじい回し蹴りが炸裂しようとして、
空振りする音が荒れ地に響く。
体勢を立て直している内に、間合いを詰められる。
「顔面狙い・・・んで、目潰し!」
と、言いつつ“天の邪鬼”な奴は“喉元”に鉄拳を炸裂させた。
「・・・・・・つっ゛っ!!」
僕は痛みにこらえる。
「・・・・・・フェイント、フェイント・・・。小賢しいんだけど――――宇」
「言葉巧みなあのアマ対応のシュギョーだかんな―――――チョイと、真似してみたんだよ。
“ごめんねぇ――――亜”」
最後の辺りが餌の声での謝礼で、少し腹が立って僕は攻撃に行動をチェンジした。
「鳩尾に――――右ストレート」
僕は宇の真似をして、狙い所を口にしてみた。
メリリっ!
・・・と、音がして宇の“鳩尾に右ストレート”が決まる。
少しぶっ飛び、宇は咳込む。
「うぇー・・・。マジで入った。・・・盗まれてるだろうが、覚えておけ。俺も忘れてたが、
お前は昔から攻撃は“正々堂々”としてたんだよな―――――俺みたく小賢しい真似は一切しない奴だよ。オマエは」
腹をさすりながら、宇は体勢を立て直して僕に襲いかかる。
空気を切ったり、愚鈍な音が小さく響いたりを繰り返し繰り返し、木霊する。
淡々と、僕らはシュギョーしていた。
静か過ぎる練習だった。
それには、理由があった。
5日経ってもこんな組み手しか出来ないくらい―――――
僕は人間でしか無くなっていた。
少し力がある人間でしか、なかった。
大技を○らえば、死ぬくらい――――僕は駄目な兵器になっていた。
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