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一人の子供が、夏の終わりの最後の暑さとでも言うかの様な、日射の当たる猛暑の今日も、僕のところへ向かってくる。
と、いうか。本当に向かうべき所は僕の所ではないはずなんだけど。
「あー、面倒ですねー。あれくらいの年の男性は、やたらとこのしゅわしゅわの飲み物を欲しがるのは、知ってましたが、1日にこの量は無いですよね」
ドンと僕の愛車のボンネットに炭酸飲料のボトルが13本入ったエコバックをその子供は忌々しそうに置いた。
「・・・・・・」
僕は手塚治虫大先生様の“鉄腕アトム”を読みながら彼を黙視する。
「骨粗鬆症とか糖尿病とかで彼、死にませんかねぇ・・・」
恐ろしく具体的な病名を出してまで死んで欲しい願望などを、彼はうっとりと呟いた。
ファンタ、コーラ、ジンジャーエール、カルピスソーダ、ソーダ、ラムネ、レモンソーダ、レモンスカッシュ、季節限定の炭酸飲料などで13本。
「・・・聞いてます?」
ガラス越しに僕を睨む子供。
「・・・・・・」
僕は黙認した。アトムにまた視線を戻す。
するとボンネットにいきなり、何かの衝撃が起き、車が前のめりに一瞬だが揺れ、後ろの席の本が雪崩れ落ちる。
子供が、ボンネットの上に飛び乗ったのだ。
金髪で顔面半分に包帯を巻き、だぼだぼの「自由」などと書かれたTシャツに短パンに裸足で学生靴を履く――――餓鬼という名の鬼。
・・・病が。
病は運転席に座る僕をボンネットから仁王立ちして見下している。
「聞いてます?もう僕のことを餌お姉ちゃんに盗まれました?」
喋りながら、あいつに頼まれて買ってきた炭酸飲料のキャップを、ひねり開けて傾け、ボンネットに、ぼたたたたたた!と惜し気も無く垂れ流していく。
「最近、僕思うんですが、お兄さんはなんかあれですよね。“ひたすらあの人が話してくれるまで私は待つわ!”―――なんていう消極的且つ自己主張が面倒なだけの結局知る覚悟がないので自分を昇華する夢見がち主義の少女まんがのサブヒロインに見えます」
なんて具体的過ぎる具体例を病は読点なしで言い切ったと同時に空いたボトルを車体の屋根に置くと次のボトルを掴む。今度は二本。
残りの炭酸飲料は10本。
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