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否、入れられたのではなく故意に此処にきたのだ。
この、腐りきった町に。
少年には目的があった。此処で、己の兄を探すこと。
兄を探しだして、己を雇った相手に報告をせねばならない。
それは契約だった。
少年が政府の研究所から脱走したところを助けた反乱軍がそう少年に条件をつけてきたのだ。
『お前の兄を見つけ出し、報告しろ。さもなければまた政府に送り返してやる。』
自分の兄をどうして探し出さねばならないのか、疑問にも思ったが深く考える必要はないと思った。
深く考えたところで、既に10年以上も前から兄とは共に暮らしてはいないし、兄は自分を売った男だ。
懐かしさなど感じない寧ろ憎しみと怒り、殺意しかわいてこない。
反乱軍にとって兄が必要だというのであれば探し出すまでだ。
そして、探し出して自由になりたい。
その理由だけで、少年はこの東京に自ら足を運んだのだ。
「ここに入りたいんだけど、」
門に立っていた警備兵に少年は声をかける。
軍隊のような服装をし、腰には警棒が下げられている。
「名前は、」
「橘 由岐哉。」
男は訝しげに由岐哉と名乗った少年の顔を見つめ、隣にいたもう一人の警備兵におい、と声をかけると、警備兵はほら、と袋から携帯を取り出した。
「携帯はこれでいいな?中に東京のマップが入っている。GPSつきだから探したい奴の番号さえ入力すれば検索できる。」
白い携帯を渡され、説明書らしき本も一緒に渡された。
もう一人の警備兵は門を開けている。
「地図?必要なのか」
「地図だけじゃない。東京で知っておかなければならない大抵の情報はこの中に詰め込まれている。」
東京は見かけよりももっと恐ろしいところだからな、というと警備兵は由岐哉の持つ説明書を指差した。
「説明書をよく読んでおけ。以上だ。さあ入れ。」
警備兵はどんっと由岐哉の背を押すと、門をすぐに閉じてしまった。
入ったら二度と出ることが出来ないと噂されている都市、東京。
「…やるか、」
由岐哉は大きく息を吸い込むと、ゆっくりとした足取りで前へと踏み出していった。
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