1117人が本棚に入れています
本棚に追加
/224ページ
春。
夕暮れ時。
茜色に染まった町並みは、何処か郷愁を刺激するものがあり(まぁ、俺自身この町から出た事は無いんだけど)、微かに吹いたそよ風は俺の鼻孔に桜の香りを運んでくる。
片手には携帯を持ち、太陽に向かって歩いていくように俺は今、帰路に着いている。
「あ、もしもし。母さん?」
『あぁ和也。どうだった? 恋人出来た?』
「いや、友達でしょ」
苦笑いでその質問に答える。
電話の主は勿論、俺の実母…母さんだ。今は訳あって別々に暮らしてるんだけど、それなりに連絡は取ったりしてる。
ちなみに父さんとはかなり前に離婚している。多分、理由と言えばあんまり会う機会が無かったからだと思う。父さんは貿易関連の仕事で家に居られる時間がほとんど無かったくらいだし、俺だって父さんと家で何か目立つ思い出があった訳でもない。ましてやキャッチボールもした覚えが無い。
てか母さん、恋人っていろんな段階飛ばし過ぎだっての。一目惚れかよ?
「大丈夫、男友達なら腐るくらい出来そうだから」
『嘘……和也ってもしかしてホモ?』
……親が息子にそんな事を言ってはいけないと思う。
「ハァ……母さん?」
ため息をついて、少しドスの効いた声で電話越しの母さんに不機嫌を知らせる。
『もう、そんな不機嫌にならないでよ、冗談じょ~だん』
「冗談じゃなきゃ本気で切ってるからね?」
本気と書いてマジと読もう。
まぁこんなやり取りも慣れてるからいいんだけと。母さんのちょっとした悪戯心だってのも理解してる。
最初のコメントを投稿しよう!