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先の話の通り、有山拓也<ありやまたくや>、東智也<あずまともや>は昨年四月に入隊した自衛官である。年は有山が22、東が19と少し離れているが、自衛隊では大した問題では無く、この様に当たり前に話したりしていた。
後期教育で同じ部屋になった二人は数日で意気投合、以来、配属された中隊は違えど、暇あればよく二人でつるんでいた。
今日は久々に駐屯地の近くに外出していたが、いきなりこの様な騒ぎが起き、駐屯地に状況を聴こうとしたが繋がらず、あっちからも連絡がこない為、仕方無く、自己の判断で帰隊を試みた。
「あぁもうだりぃ!人がわんさか出てくっからまともに走れんてぇ!」
「流石の智也も、これじゃ形無しだな?」
「マジそれやて・・・ってなんだ!?」
適当に会話していたら突然人が密集し始め、智也はやむなくブレーキを踏んだ。
「なんじゃお前ら!!」
「オイ!車を揺らすな!!」
「頼む!乗せろ!乗せてくれ!」
「その車寄越せ!でないとぶっ殺すぞオラァ!!」
「降りんかいボケ!」
群がる人々は有効な足である車を得ようと、窓を割り、二人を無理矢理引き摺り出そうとしていた。
「うぜっ!離せテメェら!」
「ゾンビかお前らは!くそくんな!智也、構わずアクセル踏め!!」
「無理言うな!正面まで密集されてるんやこの状態じゃ加速出来ずに止まるぞ!」
「マジか!・・・ぐっ、うわぁ!」
「うお!」
窓から侵入する無数の腕に拘束され、二人はあっという間に引き摺り出された。
が、次の瞬間、空から黒い物体が幾つか人込みの中に降って来た。
「な、なんやこれ!」
「で・・・・出たあ!!」
有山が呆然とした時周囲の人は一斉にその物体を見て叫び、石を投げ込まれた小魚の様に各々の方向へ逃げ始めた。
「こいつ・・・一体?」
「有山!こいつらやばい!はよ車内入れ!!」
「へ?」
車の反対にいた智也が叫び、有山がふと振り向いた瞬間‘それ’が飛び掛かって来た。
「うおぁ!!」
瞬時に反応は出来たがバランスが取り切れず、押し倒される形で、倒れた。
「なんなんやこいつ!・・・虫!?」
‘それ’の顔しか見えなかったが、頭から伸びる触角、胴体から出る数本の足、間違なくない虫だった。
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