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僕はそんな雪と買い物に来ていた。彼女は僕の趣味に密かに好奇心を抱いている様子が窺えたので、誘ってみることにしたのだ。
思いの外、雪は付いて来た。
他人とのコミュニケーションを取ろうとしない彼女としては、それだけで異常な行動だった。いつもは読書をしているか、無気力に天井を眺めているかのどちらかだからだ。
「お兄ちゃん……」
僕達は今、市外に出る為の電車に揺られている。車内に殆ど人気が無いのは、最近この辺りで不審者が相次いで目撃されているのが原因かもしれない。
「どうした?」
「あのを人見て。さっきから窓に頭を打ち付けているの。どうしちゃったのかな」
雪が目線で前方の男の行為について訴えてきた。確かに、前方の扉の前に立っている男は、吊り革を右手に持ち、一定のリズムで窓に頭を打ち付けている。
何か気に入らないことがあって精神面に障害が生じているのか、それともドラッグの類いでもやって狂ってしまったかのどちらかだろう。
「……制限時間内にスイカを頭で叩き割って、その数を競うギネス記録があるだろう? その練習をしているんだよ。きっと」
僕が冗談でそう言うと、彼女は成る程と頷いて納得してしまった。何だかやる瀬なくなった。
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