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拓哉と優美
建ち並ぶビルの隙間から、朝焼けが眩しい光を放ち、夜が明けた事を知らせる。
『やっと終わったわね。』
優美は、長い髪を遠心力でクルリッと振りながら後ろを振り返る。
その姿は、日の光を浴びて輝いて見える。
「キミが眩し過ぎてヤツらも退散したのさ!」
キザなコトを口にするのは拓哉のいつものリップサービス。
『はいはい!帰るわよん。』
二人が後にしたのは、街中の大きなスクランブル交差点。
ほんの数年前までは、人も車もお祭りみたいに行き交っていた場所。
今は、廃ビルや瓦礫の合間を木枯らしが吹いているだけ。
夜の壮絶な闘いを物語るかの様に端々では、小さく火柱をあげていた。 「消化活動しとかなくて良かったかなぁ?」
尋ねた拓哉に優美は素っ気なく答える。
『誰も居ないから、その内消えます!』
そう言って、ポケットから発煙筒を取り出し、空に向かって合図する。
バババババッ
待機していたヘリが二人を確認して降り立つ。
「最近何か冷たくない?(泣)」
『そんな事ないわよ。はい!さっさと乗って!』
ヘリは大空高く舞い上がり、街を離れ、数キロ先の小高い山の基地へと向かった。
ヘリの窓から見える景色は、混沌としていて物悲しい。
『早く大きくなった優菜に会いたい。』
優美がポツリとこぼす。
「直ぐにあえるさ!」
そう言って、優美の肩をそっと抱く拓哉。
基地に着くと、数人の従者が列を成し二人を出迎えた。
〔御帰りなさいませ!]
従者達は声を揃え、御辞儀をした。
その列の間をスルスルと飛んできたのは、ジョージに良く似た執事、シュバルツ=プレッツェ=ジョウダム一世だ。
《お疲れ様に御座います!お風呂の準備が整っております故、お温まり下さいませ!》
『いつも有難うジョー♪』
《有り難き御言葉♪》
頬を染めるジョー。
「おいおい、照れてんのかよ。」
《ヤキモチで御座いますか?ウフッ♪》
ちょっぴり目くじらをたてる拓哉。
「おっ、おい!優美!一緒に入るぞ!」
振り返りもせず行ってしまう優美。
『あ~疲れたぁ。』
後を追う拓哉。
「ゆ、優美さん!?待ってぇ~!」
ジョーや数人の従者はクスクス笑っていた。
ここだけは平和に見えるが、街中は荒みきっている。
この国に一体何がおきたのか。
こんな所で両親が奮闘している事など、ヌクヌク育った優菜には知るよしもなかった。
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