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兄は、部屋の真ん中にある卓袱台に肘をついて、こっちに視線を送り続けている。
「20歳未満喫煙禁止ー」
「五月蝿い」
折角、解放欲溢れる愚痴書いて少しはすっきりしたのに。
兄のせいで苦悩がまた一つ増えた。
「成長期なのに有害なモン入れると……」
「五月蝿い」
「未来の旦那さんに失礼な身体になっちゃうよー」
くくっ、と笑いを殺している様子が背後から窺える。
「それに、せっかくの黒髪も台無しになっちゃうよー最近枝毛多いんでしょ?」
図星。……だが無視。
半分近く灰と化した煙草を灰皿に潰し、新しいのを箱から出して火をつける。
「あ、だから喫煙禁止ー」
兄は立ち上がると、冷房の電源を切り、暖色のカーテンとベランダに通じるガラス戸を開けた。
「頼むから、閉めてくれる?……昨日も言った気がするけど」
「えー」
兄はベランダに出て、星がちらほら出ている空を見上げていた。
「なぁなぁなぁ、夏の大三角ってさ、アルタイルとベガと何だっけ?」
「デネブ」
「そーだったそーだった。いやぁ頼りになるねぇ、千宏(ちひろ)は」
「翔(しょう)兄(にい)が頼りにならなすぎなだけ」
「んな厳しいこと言うなよー」
そう言いながらも、笑っている兄。
ゆっくりと煙を吐き出して、灰皿で潰す。
「だから、やめなってば煙草。背伸びなくなるって」
「背の低い翔兄に言われても説得力ないなー」
157cm。妹よりも8cm低い兄。
……はたから見ると、情けない。
一緒に歩いていると、弟に間違えられる。
しかも、中学生くらいの。
「それ言うなよー」
笑って済ますところからして、そんなに気にしていないらしいと窺える。
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