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そして海翔は部屋から出て行き少ししてまた戻ってきた。海翔の腰にはシザーバックがついておりカット用のハサミと櫛が数本入っている。
「しょうがねえな。俺が切ってやるよ」
海翔は新聞紙を広げながら言った。
「本当?やった」
薫は海翔が美容師を目指していて知り合いの美容院から譲ってもらった練習用マネキンで密かに練習していたことを知っていた。
「どれくらい切る?」
海翔は薫に白くて大きな布を被せ霧吹きで髪を濡らしてとかしながら言った。
「襟足が鎖骨につくくらいまで」
薫の注文を聞くと海翔の表情が曇った。
「本当にそんなに切っちゃうの?この髪は薫の証のようなものだろ…」
「もう終わったことなんだからいいんだよ」
海翔を宥めるように薫はどこか寂しそうに優しく微笑んだ。海翔はただ黙って頷き薫の髪を手早く尚且つ正確に切っていった。
15分後腰まであった薫の長い髪はすっかり短くなっていた。アシンメトリーだった前髪も中心だけが長いM字バング。
「さっすが海翔。もうプロいけるんじゃない?」
「まだまだだって。でも薫のために気合い入れました」
海翔はそう言って得意げに微笑む。
「よしっ!これで被りやすいっ!」
薫はそう言って黒髪のカツラを被った。
「そう言えばカツラ被るんだったね…」
楽しそうにしている薫を見つめる海翔はどこか悲しそうだった。
薫が次に悩んだのは眼鏡。手元にあるのは瓶底のような分厚いレンズの眼鏡とお洒落眼鏡の代表的ともいえる黒縁眼鏡。すると海翔が熱烈に黒縁を支持したのでちょっと瓶底派だった薫は熱意に負け渋々と黒縁にした。
荷造りを終えた薫が一階に降りていくのを海翔は見送った。薫が完全に降りたのを確認すると海翔はさっき薫が持っていたそれをこっそりとダンボールの奥の方に入れ一階に降りた。
「やだ薫ったらすっかり男の子になっちゃって」
すっかり見た目が男の子になっている薫を見て神子は思わず薫に抱きついた。
「誰のせいだと思ってるんだってか荷物どうすんの?」
「もうすぐ業者さんが来て寮に届けてくれるから大丈夫よ」
神子が言ったその時チャイムがなり業者の人たちが来て薫の荷物をあっという間に持って行ってしまった。
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