47人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうかしましたか?」
薫の視線に気付き千景は首を傾げた。
「わ…いや俺の前では素のままでいいですよ」
薫は軽く微笑んで言った。すると千景は驚きの表情を見せた。
「なにを言って…」
「疲れちゃうでしょ?自分を造っていたら」
薫の言葉に千景はなにも言い返せずただ頭を抱え軽く笑った。
千景は幼い頃から今までずっと自分を作って生きてきた。理由は素の自分を知られ拒絶されるのを恐れてきたから。周りの人は千景自らによって造られた虚像を見ていただけにすぎない。今までで素の自分を見破ったのは幼なじみでもある運転手の近藤と薫の姉の神子だけだった。
「かなわねえな…」
千景はそう言ってスーツのボタンを2つ外しネクタイを緩め着くずし窓を開け煙草に火を付けた。薫を見つめて軽く微笑む。
「そっちのほうがいいですよ」
薫はそう言って千景に灰皿を差し出した。すると千景は灰皿に灰を落とす。
「んじゃこっちからも言わせてもらうが俺はおまえが女だっていうことは知ってるから俺の前では無理に男らしくする必要はない」
千景の言葉に薫は驚きのあまり目を見開いた。
「安心しろ。理事長からちゃんと話聞いたから」
「あ…なんだ…。そうだったのか」
薫はハハハと照れながら笑った。
それから他愛のない世間話をしているとあっという間に学校から徒歩10分ほどのところにある寮に着いた。寮というよりはどこかの高級ホテルのようなところだ。薫は車から降りて千景に寮長室まで案内してもらう。そして寮長室に着いた。
「じゃあ俺はもう行くから。くれぐれも寮長を怒らせるんじゃないぞ」
千景はそう言って薫の頭を撫でた。
「大丈夫だって。ってかヅラとれちゃう」
薫は必死でカツラを直した。千景はそれを見て笑う。少しの時間だったが二人はもうすっかり打ち解けていた。
「じゃあな」
千景が去っていくのを薫は手を振りながら見送った。
「…よし」
薫は軽く深呼吸をしドアをノックした。この物語はまだ始まったばっかりだ。
最初のコメントを投稿しよう!