*いいから黙って*

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君の家は俺の家の隣りの隣り。 2分もかからないで行ける所にある。 君は家の中に入っても腕を離さない。 君の部屋に入ると、ようやくその手を離してくれたが。 ドアが閉まる音が、俺を帰そうとしてくれなかった。 「お前さ、俺のこと嫌いになった?」 向かい合って座り、5分くらいの沈黙を先に破ったのは君だった。 「そんなことはない!むしろ…」 口が滑った。 できることなら、聞き流して欲しかった。 けれど、そんなこと許されなかった。 「むしろ…何……?」 最も恐れていたことが起きてしまった。 君にだけは知られてはいけないんだ。 「好きだ。大好きだ。友達としてとかじゃなくて、あなたが好きです。」 君のことをちゃんと見れない。 たまらなくて、下を向くと涙が零れてしまった。 ポタリ、またポタリと。 拭いても拭いても、止まらなかった。 嫌われたらどうしよう。 男同士だ。 気持ち悪いと思われても仕方がない。 今まで積み上げてきた友情がバラバラと壊れていく。 次の瞬間にはそうなるだろうと思っていた。 怖くて仕方がなかった。 不意に、 本当に不意に 抱き締められた。 「なんで……」 「いいから、黙っとけ。」 耳元で君の声がする。心臓がドキドキする。 何も言わずに俺を抱き締めている。 そんなことして良いの? そう思って、口に出したかった。 なのに、君の体温が、心地よくて。 思った以上に温かくて。 このままでいたかったズルい俺は、何も言わなかったんだ。 そうしたら、君はこう言ったんだ。 「俺もさ、お前のこと…好きだよ。」 心臓が止まるかと思った。 驚いて振り向いたら、君と視線がぶつかった。 嬉しくて、嬉しくてしょうがなかった。 君は優しく微笑んで俺のことを見ていた。 それだけで胸がいっぱいだった。 見つめ合うのがこんなにも幸せなことだとは思わなかった。 視線が糸のように絡み付く。 俺たちは惹かれ合って、どちらからともなくキスをした。 切ない想いはどこかへ飛んで行き、今は幸せしかなかった。 啄むように君としたキスはとてもとても、甘かった。
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