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2007年、冬――。
「か~ずき♪」
ガバッ―
『うぉっ!?』
私は浜辺に座っている和稀の背中に向かって、勢い良く抱き付いた。
その反動で、和稀の体が大きく前に体勢を崩す。
『ったく、お前は…』
「へへ♪」
呆れたような笑みを浮かべてゆっくり振り向いた和稀に、私は悪戯っ子そうな笑みを浮かべて見つめた。
和稀は大抵の事なら笑って許してくれる。
怒鳴られた事なんて一度も無い。
いつも、笑顔で相手してくれた。
そんな和稀が大好きで、つい甘えてしまう。
「今日、寒くない?チャリ漕いだら手、真っ赤なった!」
『貸してみ?』
抱き締めていた力を緩め、冬の寒さで真っ赤になった手を和稀に見せた。
本間やな、と何処か優しい眼差しで私の手を見つめる和稀。
とても大事そうに彼の大きな手が、私の手を優しく包み込んだ。
『ちっちゃい手…赤ちゃんみたいやな』
「うっさいわ」
二人でクスクス笑いながら、くだらない話をする。
そんな平凡な日々が楽しくて、一緒に居れるだけで幸せだった。
視線を下に向けて包み込まれた手を見つめては、和稀の温もりが手伝いに体へと流れていく。
氷のように冷たくなっていた手が、徐々に元の温かさを戻す。
「和稀、ありがとっ!もう、大丈夫」
『ん…』
私の言葉を聞いた和稀はスッと手を離し、再び目の前の海へと視線を移した。
手が離れると、私は和稀の背中から離れ、隣に腰を下ろす。
座る場所は決まって左側。
左側に座って、横目でチラッと和稀を見上げる。
真っ直ぐ海を見つめる和稀の横顔。
思わず見とれてしまって、少しばかりドキドキした。
『久ぶりやな…こうやって海で会うの』
ボーッと自分の世界に入り込んでいた、私。
ハッと我に返っては、微笑みながら慌てたように頷く。
「やなぁ……」
私と和稀は家が少し離れていて、会いに行くのには自転車しか交通手段が無い。
片道30分くらいの道のり。
好きな人に会えるなら全然苦にはならないが、時間が限られ、いつも短時間でしか会えない。
私の両親が厳しく、こうやってゆっくり会えるのはなかなか無いのだ。
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