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いつか死ぬだろうとは思っていた。
長らくあっていない父さんからの突然の電話。いつもの明るく朗らかな父さんからは想像も出来ないような重苦しい声。久方振りの挨拶もなしに、途切れ途切れ紡いだ言葉はたったの一言だけだった。
「母さんが、今朝、病院で…」
言わずもがな、すぐに言いたいことはわかった。母さんが死んだ。そう、僕が前から予想していた通りに。
機械越しに知った母さんの訃報に、僕は別段何の感情も湧かなかった。事実を受け止めきれないのか、認めたくないのか、はたまた母さんに何の情も抱いていなかったのか。
いや、母さんは好きだった。少なくとも僕は好きだったし、母さんも僕を愛してくれていたと思う。
そんな僕とは対照的に、冷たい機械の向こう側から絶えず父さんの上擦った声が僕に語りかけていた。
「大丈夫だ、聡。何も心配は要らない。もうすぐ父さんと明がそっちへ帰るから。母さんがいなくて寂しいかもしれんが、聡なら1人でも大丈夫だよな?今まで1人だったもんな?」
今まで1人?
僕を1人にしたのは父さんと明のせいじゃないか。1人になりたくて1人になったんじゃない。
溢れ出る様々な感情に心をかき乱される。
「うん、僕のことは良い。母さんのことも僕が何とかするよ。叔父さんと相談して葬式は僕たちであげる。だから父さんはそこで頑張って働いてよ。……明もそっちの方が好きだろうし」
明、なんて名前、久し振りだ。あいつは今いったい何をしているんだろうか。でも明のことだからうまくやっているのだろう。あいつは昔からそういう奴だった。
「でも、」
いまだに続けようとする父さんの言葉を元から絶つように、素早く淡々と言葉を発する。
「良いから、本当に。僕は僕でやっていけるから気にしないで。父さんは父さんで頑張ってよ。式の日が決まったらまた電話するから」
――もう父さんと明とは関わりたくない。母さんを捨てたのに、
「いや、だが聡、お前は本当にそれで」
ひとりぼっちの僕に今更何の用があるってんだよ、
「良いってば!僕が全部母さんのこと、やっておくから……何だよ、急に今更。もう僕のことなんか――」
――放っといてくれ
僕はそこで言葉が詰まった。腹から出そうになる醜い感情を必死にこらえる。
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