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月が照っている…――。
時刻は深夜。
街が眠りについた頃、動く影が二つある
素早く移動する影は目でやっと追える速さだ
暫くの後、路地の角でようやく足をとめた
「…間違いない」
一つの影。
低い声が、静寂を縫う
旋毛のあたりでまとめられた長髪が、風をはらんで翻った
前髪がかくしていた瞳は琥珀の色を宿し、感情をうつして煌めいている
斎藤一
それが彼の名。
新撰組三番隊組長を勤める、凄腕の剣士だ
「やっぱり…」
その側で呟く、小柄な二つ目の影
それは華奢な体をした、まだ二十歳を越えぬ少女だった
何故少女がいるのか
それは、彼女の纏う衣を見ればわかる
斎藤と同じく、袴に青い羽織
そう…彼女はまごうことなき新撰組隊士なのだ
証拠と言わんばかりに、腰には刀が備えられている
「…準備はいいな」
斎藤が自身の刀の柄に手をかけた
それに目で応じ、少女は一足早く刀をぬく
今日は維新志士の会合があるらしい
それを未遂で終わらせるために、斎藤と少女はやってきたのだ
「しくじるなよ?」
「もちろん」
互いに笑みを浮かべ
呼吸をあわせて
二人は奇襲を、実行に移した
それが互いの姿を見た、最後の夜になるともしらずに……。
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