いち

3/3
前へ
/14ページ
次へ
 『ごめんなさい!』  こういうときはとりあえず謝る。  平謝りでも続けていれば、そのうち母親は怒るのに疲れて寝てしまうと予測して。  返信しないと怒るので、早打ちして。  私はメールを早く返さないと怒る人がまったく理解できないので、はっきり言って迷惑なのだが……。  『レオは捨てたからね!』  まずい、本当に捨てたのか?  本格的にやばくなってきた。  なんてことだ。  正気か?  『ごめんなさい。これからもちゃんと面倒見るから捨てないで!』  前にもこういうことがあった。 "レオは捨てた"という内容のメールを受信したのはJRの電車のなか。  そのときだって私は仕事でへ行く途中だった。  慌てて引き返して家に戻ったら、レオ、私の愛猫はキャリーケースに入れられてベランダに放置されていた。  騙された気分だった、それ以来自宅なのに慎重に行動するようになった。  だから、今回ももしかしたら"外に出した"のは嘘なのかと思った。  だが、家に電話すると妹の千穂が出て『レオ追い出されちゃったよ……』と言った。  『外で千穂が泣きながら探してるよ』  ふざけんな!  悠長にメールを送ってくんな!  だいたいお前のせいでこんなことになってんじゃんか!  そう電話で怒鳴ってやりたいのをぐっと抑える。  まだ一人暮らしのあてがない以上、今すぐ猫とともに追い出されるのは困る。  とにかく、今は妹の捜索だけが頼りだ。父親はまだ仕事から帰宅していないらしい。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加