5人が本棚に入れています
本棚に追加
せっかく気持ちが通じたのに…。
君はもう居なくて…。
―*―
稚兎瀬は倒れて病院に運ばれた後次の日退院の筈が、一週間も延期したのだ。
入院している間、稚兎瀬はご飯を食べずずっと外を眺めていた。
いくら食べなさいと言っても聞かない稚兎瀬に看護婦は、点滴に変えてくれた。
暫く外を眺めると、必ず涙が流れた。
何も考えてないはずなのに、止めどなく流れる涙。
稚兎瀬にはどうする事も出来なかった。
『桜花…今何しとるんじゃろうか』
呟く言葉はいつも桜花の事で、看護婦が『彼女さんですか?』と聞くと稚兎瀬は曖昧な返事をした。
『まぁ…彼女みたいなモンです…もう居らんけど…』
その言葉で看護婦は『ごめんなさい…』と答えて、部屋を後にした。
「…どうしたの?稚兎瀬らしくないよ?…元気出して?」
急にドアの方から聞き覚えのある声がして、ドアの方を見ると。
『なっ…なんで…』
「せっかく稚兎瀬に逢いに来たのに…酷い言い様ね」
いつもの笑顔で桜花が立っていたのだ。
稚兎瀬が点滴を外して駆け寄ろうとすると、桜花が怒った。
「稚兎瀬!点滴外したら…帰るからね?私が、そっちに行くから。」
桜花はクスクス笑いながら、ゆっくり稚兎瀬のベッド近寄った。
『なんで…?ホントに桜花なんか?喋り方も普通じゃし…』
稚兎瀬は桜花をマジマジと見つめた。
桜花は稚兎瀬の態度に顔を膨らませるとこう言った。
「…稚兎瀬を、叱りにきたのよ…少ししか、居れないよ…」
桜花は悲しそうに呟いた後に続けて言った。
「看護婦さんを、困らせたらダメでしょ?私が…居なくなった事に、胸を痛めてくれるのは…嬉しいけど、ちゃんと自分でご飯を食べる、ずっと外眺めてても意味ないでしょ?…私が好きになった稚兎瀬は、笑顔で景色を愛しそうに眺めてる子だよ、ぼーっとしてる稚兎瀬は嫌。」
稚兎瀬はその言葉を聞くと、桜花に向かって微笑んだ。
『そう、じゃな…俺らしくないか、桜花に嫌われるのは悲しいからのぅ…俺らしくする』
稚兎瀬の言葉に安心した桜花は、「なら良かった、そろそろ行くね…」と言った後に呟いた。
「私はいつも見てるから…大丈夫だよ?」
最初のコメントを投稿しよう!