1.出会い

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―春になり 桜が咲いて ―舞い散る姿は とても儚くて 綺麗な歌が穏やかに聞こえて。 道行く人が皆聞き入る程の澄んだ歌…―。 ―*― 『いかん…幻聴でも聞こえたんじゃろうか…』 稚兎瀬は先ほど聞こえた綺麗な歌を、幻聴だろうと考えていた。 しかし、スグに幻聴かもと言う考えは間違いだった事に気付く。 ―桜の花びらが 舞うたびに ―人々は皆 足を止める ハッキリとでも一部分だけだがちゃんと歌が聞き取れたのだ。 『幻聴じゃ…なかったんか…?』 稚兎瀬は小さく呟くと、何処から聞こえるのかを探った。 ―桜の木の下で 貴方を待って ―綺麗な桜を 眺めていたら ―自然と涙が 溢れ出して 『高い場所から聞こえとるんか…?』 稚兎瀬は桜の木をずーっと見ていた。 すると丘の上に、桜の木を見つけ近寄ると、歌もよりハッキリ聞こえてきた。 ―貴方に逢いたくて 待っていたのに ―いつになっても 来てくれなくて ―桜を見上げ 小さく笑い ―馬鹿だと 泣いて 『おい!!そこんお前!!そこで何しとるんじゃ!?』 桜に近寄り上を見上げると少女が足をぷらぷらさせて泣きながら歌っていた。 「何って…歌…聞こえなかったの…?」 少女は声を掛けられた事に動揺せず、あくまで冷静に答えた。 歌声は澄んだ綺麗なのに比べ、普通の声は喋るだけで周りに落ち着きをくれる、そんな声だった。 『やっぱり…歌っとったんはお前やったか』 稚兎瀬は少女を見上げながらそう呟いた。
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