かぜニ成る

2/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
「うぉぉぉー!!!」 彼はとても人には見られたくない形相で、自転車をこいでいた。 現在7:50。電車の発車時刻は8:02。 家を出た時刻、7:45。 家から駅まで20分。飛ばして17分。 つまり彼は一時も休むことなく自転車をこぎ、そして駅に着くまでこぎつづけなければならない。 天気は快晴、車の通りも少ない住宅街の裏道を一人の高校生が凄い勢いで駆け抜ける。 向かい風もなく、彼を邪魔するものは空気抵抗だけだった。 8:00、駅到着。 自転車を駐輪所に投げ捨て、彼は定期券を片手に改札口へ走り出した。 8:02。電車の発車ベルが耳に入ったとき、彼は階段を駆け降りていた。このままでは確実に間に合わない。 「ヒロ待ったー!」 彼は叫ぶ。と、同時に電車の扉が動いた。 だが、誰かの足が扉の動きをブロック。そのおかげもあって彼は電車に乗ることができた。 「サンキューな、ヒロ」 笑いきれない笑顔でヒロの手入れされた無造作な髪を、平気で本当の無造作ヘアになるまでかき乱す。 「……。彰(あきら)、そんなに汗かくなら遅刻するなよな」 ヒロこと春日弘和は親友である渡辺彰に呆れていた。 ここ最近彼が遅刻をするようになっているからだ。理由は簡単、夜更かしによる寝坊。 「夜遅くまで長電話ですか。あーそうですか」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!