かぜニ成る

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「ヒロ…劇的な出逢いをありがとう」 「俺に言うな、風に言え」 「ああ。かすりのことを思うあまり忘れてたぜ。春…いや、風のイタズラの季節か」 カッコつけて言っていても内容は幼稚。そんな彰に冷たい視線を送るのはヒロの他にもう一人いた。 「彰くん。朝から良いもの見れた?」 「……………………。いや、なにも」 彰くんと呼ぶ声を聞いた途端、さっきまで陽気だった本人は血の気を失っていった。 背後にいる気配を察知して、彰は取り繕った仮面を被る。彰が振り返れば、黒い雰囲気を身にまとった女子高生が一人。実際には他にも登校する生徒がいるが、極めてその女子高生が目立っていた。 「やぁ、かすりさん。今日も良い天気だね。こんな日は平和が一番だと思うんだ。うん、そうだよ。平和が一番だと思うんよ」 「うっさい!」 ばちこーん、と…外は柔らか、中は固いものを平手が見事にはたく。 彰は悲痛に歪んだ顔で2~3㎝宙に浮かぶ。そのまま受け身をとる暇もなく着地失敗。彰は通学路に大文字を描いた。 「まったく!」 乱れてしまった黒いショートヘアを、軽く手で直した。 彰に容赦なく平手を喰らわしたのが、正真正銘彰の彼女、槇(まき)かすり。彰との出逢いは二年になってからのクラス替え。日にちが浅いにも関わらず、かすりは彰に一目惚れして告白した。 「ははっ。すっかり尻に敷かれたな彰」 付き合い始めてわずか一週間で、かすりはすっかり暴力化。
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