かぜニ成る

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ヒロより一足先に地元に着いた彰は、早速今朝乗り捨てた自転車に股がる。乗ったかんじ違和感はなく、軽やかな滑り出しをみせる。幸いにも調子は悪くない。彰はギアを入れ換え、どんどん加速した。 行く手を抑える風がない日を、彰は好んでいた。こげばこぐだけ速さとなって自分を楽しませてくれる。誰も自分を咎めることはできない速度。誰にも止められない優越感。 「僕は風だー!」 「はははは!」と、有頂天な笑い声が住宅街の裏道に響き渡る。 「んあ?」 ほんの一瞬。風になっていた彰は、たぬきの着ぐるみを見た気がした。しかしそれが本当にいたのかも定かではない。 なぜなら… 「僕は風だー!」 風になることをすっかりと楽しみ、目に入ったものを気にしていないからである…。 彰が勢いに任せて過ぎ去った住宅街は、風一つ吹くことはなかった。
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