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男性は教室に入ると、そのまま教卓の方へと足を運んだ。
そして、教卓の上にタイトルが書いてあるシールの角がやや剥がれ、黒光りした表紙をした物を置き、生徒達の顔を見渡す。
目があまりよくないのか、目を細めながら一通り見渡し終えると、大きな溜め息と共に、視線を下に向ける。
「先生! 今日転校生来るんですよね?」
男性はその発言にピクリと肩を震わすと、溜め息混じりに口を開く。
「それがな……」
「ちょっ、もしかして今日来ないんですか? 期待してたのに」
明莉がそう言い終えると、先程まで笑顔だった皆の顔が、口元の緩みがなくなり、口を尖らせたり、溜め息へと変貌し始めた。
しばらくの沈黙が教室を漂い、その空気を変えるために、先生と呼ばれた男性は「出席をとるぞ」と話題を切り替える。
先生が生徒の名前を呼び出すが、力のない返事ばかりである。
「残念だったな」
貴大は苦笑いしながら、明莉に声をかけた。
「貴大の情報が間違うなんて……。うちの恋はどうなるのさー」
「いやいや、まだ顔すら見てないのに恋とか、お前どんな奴だよ」
そんな会話がひそひそとやり取りしてる教室とは違い、校舎の外では慌ただしく草木を掻き分ける音が――。
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