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「すみませんでした。無理言って…」
「いいのよ、先生も嬉しいわ。さ、座って」
すすめられた椅子にそっと腰をおろすときしりと音を立てた。
そんな些細な音にすら喜びを感じ頬がゆるんでしまう。
「体調は?大丈夫なの?」
「あ、はい。さすがに教室までの許可はおりなくて…」
今いるのは保健室だ。
そして目の前にいる白衣を着た先生は保険医。
心配そうに生徒と話す。
「大丈夫ですって。俺けっこー丈夫みたいだし。ここまで、しぶといんだし」
そう言って生徒は少しだけ視線をずらす。
「…うん。わかったわ。でも無理だけはしないでね。何かあったらすぐに言うのよ?」
ね?と念を押すように言われうなずく。
「そうだ。クラスには?挨拶くらい…」
「必要ないですよ。」
にこり。
悲しい笑顔で生徒は先生の言葉を止める。
「俺のこと知ってる人なんていないですし、それに――」
続けようとした言葉。
「(いつかは、会えなくなるんだ――)」
「それならいいけど…あら。もうこんな時間。」
先生は壁にかけられた時計を見て立ち上がる。
「ごめんなさい。会議が入ってて。ゆっくりしてていいからね」
「ありがとうございます。」
少しあわただしく出て行く背中にお礼を言うと先生がこちらを振り返った。
「友達、いっぱいできたらいいわね。」
明るい笑顔で言い先生は保健室を出て行った。
「友達、か――」
誰もいなくなった部屋は静かで呟きが妙に大きく聞こえる。
背もたれによりかかり、天井を見上げた。
「…友達、ほしいな…」
その呟きは自分が孤独なのだと思い知らせるには十分すぎた。
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