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それからも度々彼は此処に訪れた。
この書店は2階建ての作りになっていて、1階は書籍と文房具。2階はCDやDVDのレンタルをやっている。
時折、スーツ姿の彼がレンタルのロゴの入った袋を手に2階に上がる時がある。
仕事の途中で返却に来ているのはスーツ姿がそう言っている。
週明けという事は、奥さんとふたり週末にのんびりDVDを見ているんだろう。
アタシの両親もいつまで経っても仲の良い夫婦だが、オッサンのとこもそうらしい。
アタシの想像は膨らんでいく。
ワインなんか用意しちゃって、ふたりで飲みながらDVD鑑賞。
テレビはきっと液晶で、
AQUOS の46型くらいがあるんじゃない?
大画面で見る迫力ある映像。
40歳越えてんだろうからそれくらいのテレビなんか買えるよね。
奥さんも働いてたら尚更買えるじゃん。
優雅な暮らしだよ。
「…………たよ」
いいなぁ、子供中心にならず、優雅に暮らせるなら結婚も考えてみてもいいんだけどさ。
そんな妄想を繰り広げていたアタシの肩を誰かが叩く。
振り向くと彼が小さなハタキを持って立っていた。
「落ちてたよ。何か考え事かい?」
「あ、すみません。ちょっと仕事の事で……」
咄嗟にアタシはそう嘘をついた。
まさか、オッサンの暮らしぶりを妄想してたとは言えまい。
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