4820人が本棚に入れています
本棚に追加
/119ページ
「仕事に対して悩むというのはいい事だ。悩んでそこから何かが生まれてきたら最高だ。進歩出来るという事だからね」
そう言ってハタキを手渡してくれたオッサンに、他の客に聞こえないようにボソボソと本当の事を話した。
だってさ、仕事の事なんか全く考えてなかったのに、そんな風に褒められて後ろめたかったんだもん。
「はははっ! 君は面白い人だな。残念ながら46型テレビも奥さんも俺は持ってないよ。週末DVDを見たのは正解だったがな」
(えっ? 結婚してないのかい、このオッサン)
見た目も悪くない。デブでもハゲでもないし、何気に身体も締まってそうだ。
「考え事はそれくらいにして仕事しなさい」
彼は笑いながら一冊本を手にしてカウンターに行ってしまった。
(なんで結婚していないんだろう?)
若い頃を想像してみてもそう悪くないように思う。
《結婚したくない病》か?
ん?
いいんじゃない?
ピッタリじゃない?
結婚願望の無いアタシと合うんじゃない?
80とかの爺さんでもないし、しばらく生きてるでしょ。
「見つけた……」
アタシは、カウンターに立つオッサンの背中を見つめて呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!