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「あ、えーと、この本読んだ事ありますか?」
アタシは棚から取り出した本を、彼に見せて聞いてみた。
「いや、これは読んだ事ないな」
「あ、これはね……」
「買って読むから言わなくていい」
(危ねぇ、またやるとこだった)
「じゃ、これを」
彼がアタシに手渡してきた本を持ってカウンターに向かった。
「540円になります」
彼は財布からちょうどのお金をトレイの上に置いた。
お金を受け取り、本を袋に入れようとしたところで声をかけられた。
「すぐに読むから、そのままでいいよ」
(あれ? 仕事しないで本読むのか?)
アタシの考えた事が解ったのか彼が口を開く。
「得意先との約束の時間までヒマだからね、車の中で読書さ」
成る程、そりゃ何冊も本が必要なのかもしれないわ……。
「ありがとう」
今日も彼はそう言って出て行った。
こんなに会ってるのに、まだ名前も知らない。
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