藍子の決断

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  30分のサービス残業をしたあと帰る仕度をする。   これからケーキのひとつでも手土産に買って行けば、ちょうどいい時間に着くなと考え、車のエンジンをかけた。     走り出してすぐにケーキ屋が見えてきた。   ここのモンブランが旨い。   アタシはモンブランと、藍子の好きな苺のショートケーキ、あとはチョコレートケーキにエクレアを買う。   箱に詰められたケーキを手に、また車に乗り込んだ。   最近車の中で【こぶくろ】を聴いている。   彼の好きな歌を聴いてみようかと思って。   時として、聴いていて眠くなる時がある。   アタシはどちらかというと、ノリのいいテンポの早い歌が好きなんだ。     まぁ、これも悪くないし、彼も聴いていると思うと眠たくなっても我慢だ。     車を走らせ15分。藍子の住むアパートが見えてきた。   アパートの隣にある空き地に車を停め、ケーキの箱を持ちバッグを片手に車を降りる。   2階建てのアパートには8件が入っていて、2階の奥が藍子の部屋。   薄暗い外灯のもと階段を上がり奥へと進むアタシの耳に、怒鳴り声が微かに聞こえた。     「おいおい、喧嘩ですかぁ? 何処のうちだ?」   アタシは小さくそう言って笑ってしまった。    藍子の部屋のドアの前に立つ。   アタシはチャイムを鳴らそうとした手を止めた。     怒鳴り声はこの部屋から聞こえてくるものだった。  
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