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藍子は結婚したくない女じゃ無かったんだ。
彼と結婚して幸せになりたい女だったんだ。
誰もが願うそれぞれの幸せを手に入れたいのは当たり前のこと。
「藍子、頑張ったね」
アタシは藍子の肩を抱きしめた。
「しっかし、そうだと知ってたら、あのボケ男に蹴りの一発でも入れてやったのに!」
そう鼻を膨らませて言うアタシに、ありがとう、と藍子が言った。
「それよか、なんで22日の今日だったのさ」
アタシの問いに、今日が付き合って丸5年の記念日だったと言った。
記念日ごと葬り去ろうと思ったと言って、また一粒涙を零した。
アタシはケーキを買ってきていた事を思い出して箱を探した。
それは玄関を入ってすぐの所に横になっていた。
箱を持ち上げ、中の様子はだいたい解っているが、奇跡的に大丈夫であるように祈りながら開けてみる。
「あちゃー! 藍子……ミックスされてるわぁ」
奇跡は起きていない。
「ふふっ、特別な今日に相応しい特別な味だよ、きっと」
藍子が食器棚の引き出しから出してきたフォークで箱の中の特別な味をふたりで楽しんだ。
「藍子」
「ん?」
「結婚しよ。いい人見つけて結婚しよっ!」
藍子は、うん、と頷いた。
今日が藍子のスタートの日。
ふたりで崩れたケーキで再出発のお祝いをした。
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