無題

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   とある入り口だった。 「――優秀な剣修生であったことは私が保証し、貴君らもよきに計らいたし――と。確かに、あの人からの紹介状だね。相変わらず達筆ですね御丁寧ですね。見習わなきゃ」  と、そこまで言った男が、手紙を読み終えると少女を見下ろしてきた。 「ふうん、へえ。女の子なのにねぇ」  彼からは武人のような空気が伝わってこなく、気崩したスーツを着ていて、この小さく古風な木造建築にいる、一介の事務員にすぎないことはすぐに予想できた。  だから少女は男に話しかけたのである。  入門するために。  去年から彼女の母親は肺を患い容態はなかなか回復せず、今すぐどうなるという空気でもなかったが、悪化する気配がたびたび見られたため、今夏、ついに王都の大病院へ移ることになった。  フェイトルージアの剣術学校を気に入っていた少女だが、やはり母親が心配で、王都へ付いていくことに迷いはなく、母はこの世に一人で、王都バーニーズシティにも大きな剣術学校が当然ある。そこは比べようもない。少女は学友のために毎日剣を振っていたわけではなかったから、王都行きは簡単な決断であった。  ただ。 「まあ、紹介状なんて要らなかったけども? まあ、いいか。ひとまず入りなよ。ボロいところだけどさ」  この少女が足を運んだのは中央魔導院付属の剣術学校ではなく、とにかく草臥れた雰囲気の、小さな剣術指南所であったのだ。  と言うのも、元の学校で少女がずっと慕っていた教官が、 『王都へ移る、か。それもいい。お前の母が好くなることを祈ってるよ。そうだ、王都へ行くのなら――』  そう言って、紹介状を書いた先がここだったのだ。  手紙を少女に渡す時、教官は意味深な発言も付け添えていた。 『師も大切だが。お前の場合は、教官よりもタメになる存在がいるだろう』  よくわからなかった。聞き返すこともなかった。  ただ、少女は教官のこととても信頼していたので、ただ頷くと、唯々諾々のままここへ足を運んだのだ。  彼の案内で木造の廊下を歩き始めた少女は、回想をすぐにやめると建物を見回した。  ここは本当に王都なのだろうか?  田舎くさい。  むかし、竜に襲われたことがあるフェイトルージアも田舎に近い街だったが、ここはさらに、なんというか、うん。  しょぼかった。  
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