美女って大体野獣が父親

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随分と遅くまでいたわね。 もう、十時を回っているわ。 普通なら出歩く事の無い時間帯ね。 初夏の夜風は少し心地いい。 「急いで帰らないとな。アニメが始まってしまう」 ここにきて、アニメが気になるか。 まぁ、何時も通りだから良いけど。 「まだ、昔の事気にしてたりする?」 「昔の事って?」 私が湊谷にそう尋ねると、目を合わせずに聞き返してくる。 「昔の事だよ。もう、四年前の事になるかな」 「……気にしている、と言ったら?」 やっぱり、未だ引き摺っていたの。 あれは警察の責任で、貴方の所為では無いと言うのに。 それに、その後の事だって。 「美結は幸せであって欲しいな」 「何よ唐突に」 変な事を言うわね。 「ギャルゲのヒロインみたいに、いろんな事に巻き込まれないで、普通に平凡に暮らして欲しい。普通に学校を卒業して、普通に進学とか、就職とかして、やさしい旦那さんを持って、可愛い子供を育てて……そんな人生を送ってほしいな」 「あんたの所為で、普通とは程遠いけどね」 嫌味を言ってやるとこの馬鹿は苦笑する。 笑い事じゃないのよ? 「そりゃ自覚はしているけどね」 自覚しているならやめなさい。 言っても無駄だろうけど。 「俺みたいな……」 そう言う前に湊谷の腕に抱きついた。 「……美結、何をしているんだい?」 珍しく虚をつかれたように湊谷は私に言う。 「別に。こうしたかっただけよ」 腕に抱きついたまま、私は言う。 お酒、間違えて飲んだのかしら。 少し酔っているみたいね。 湊谷はそれ以降何も言わなかった。 そうして、私達はそのまま何事もなく、帰宅するのであった。
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