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恐る恐る近づいてみると雫が視たのは黒髪の男性のようだ。
それにしてもまだ18、9の少年にしか見えない。
長時間雨に当たっていたせいか服や髪から水が滴っている。
『こんな大雨の中どうして家に帰らないんだろう?』
不思議に思った雫は思い切って少年に話し掛けることにした。
「ねぇ、早く家に帰らないと風邪引いちゃうよ?」
少年は話し掛けられた事に驚いたようだが答えようとしない。
自分の知らない人間だから警戒しているのだろうか?
「ほら、こんなにずぶ濡れじゃないの。
お父さんやお母さん、君の帰りが遅いって心配してないかな?」
雫がそう聞いても力なく首を横に振るだけ。
少年はかたくなに口を開こうとしない。
「困ったなぁ・・・。
この近所に知ってる人とか住んでないの?
もし居るなら送ってあげようか?」
雫の優しい問い掛けに少しずつ安心してきたのか少年が口を開いた。
「この辺に知り合いは居ないよ」
ようやく喋ってくれた事に喜びを隠せない雫。
「じゃあ君の家はどこにあるの?
連れていってあげるよ」
「分からない」
「え?」
雫は少年の発言を理解できていないらしくぱちくりしている。
そんな雫に少年は強さを秘めたような、だけど寂しげな表情で言葉を続けた。
「オレ・・・記憶がないんだ」
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