4854人が本棚に入れています
本棚に追加
「人間よ、何をしに来た?」
私の姿を目にした城の主が、低く地獄の底から響く様な声でそう言った。玉座にゆったりと座るその姿は、ただの魔物とは思えない。
魔王の風格さえ漂わせている。
「貴方の御力をお借りしたくやって参りました。どうか私の話を聞いて下さい」
視線だけで気圧されそうになる意識を押し留めて、そう魔物に告げる。血の如く赤い両眼が、私を品定めするかの様に見つめていた。
ーーーここで怯んでなどいられない…
「お願いします…!一刻を争うのです!」
「人間が魔物に頼み事とはな。正気か?」
「貴方しかもう頼る方がいないのです」
断られたら、もう後は無い。
あの方の命を助ける為ならば、形振りなど構っていられない。
誰から何と言われようとも。
例え邪道と罵られようとも。
あの御方と、我が国の為に。
「ーーー話だけなら聞いてやろう」
肘掛けにゆったりと体を預け、魔物が言った。焦る私は、まくし立てる様に一気に話を切り出した。
最初のコメントを投稿しよう!