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はてしなく空が広がっていた。
少しずつ肌寒くなる風が大きく横たわった入道雲を運ぶ。
「本当にいいんだな?」
それは本日23回目の¨いいんだな?¨だった。
そんなに俺を引き止めたいのだろうか……。
そんな俺の小さな心の声は駅のホームの静けさに響いた。
「何度も言ってるだろ、俺の考えは変わらない」
そしてこれは23回目の¨俺の考えは変わらない ¨だった。
父さんは深いため息をつき胸ポケットからタバコを一箱取り出した。
銘柄はマールボロ。俺の知る限り父さんはこれしか吸わない。
くたびれたYシャツはタバコのヤニで少し黄色がかってしまっている。
少しずつ頭頂部から勢力を広げつつある禿と、少し流行にあわせた白黒の眼鏡ははっきり言ってダサい。
「それだ」
と俺は呟いた。
「何がだ?」
父さんは遠くを見るような目で問いかけた。
「アンタのタバコの銘柄が変わらないのと同じくらい俺の考えも変わらないんだ」
父さんは一瞬ポカンとしてから少し笑った。
「……そうか、いつの間にか父さんと呼んでくれなくなったんだな………」
その言葉には淋しさや後悔や色々な感情がこもっているのだろうか…
それともただ俺に考え直してほしくて選んだだけなのだろうか…
それを探ろうと父さんの顔を見ていた時、不意にインフォメーションが流れた。
もうすぐ父さんが待っていた新幹線が来る。
そんなような事を言っていた。
「そろそろか……、最後に聞くけど……」
父さんが最後に何を聞くのか分かった俺は即座にこう答えた。
「サヨナラ、親父」
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