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ザザ……
「……帰れない」
突然の雨空の下。更に言えば、とある小学校の昇降口。そこに、困り果てた童顔を空に向けた少年が1人。ポツンと立っていた。
それはいわゆる当時の俺であり、この光景は俺の懐かしい記憶の一環らしい。
「……どうしよう……」
先程から同じ様な言葉しか出ない。
頭の中に玄関に置き忘れた傘の姿が浮かぶ。
帰路は徒歩で15分ほどという、さして近くも遠くも無い様な距離。
しかし、さすがに教科書やノートでいっぱいとなったランドセルをグシャグシャに濡らしてまで雨の中を走る気力は、俺には無かった。
そんな俺の周りでは、カラフルで様々な傘等が俺の存在など空気としか思っていないかのように次々と通り過ぎてゆく。
見回しても、同じ方向に帰る友達の姿は誰一人見当たらない。結果、どうしようもないという結論。
「はぁ……」
溜息一つ。
「しょうがない……か……」
ついには諦め、そして一歩。雨粒の中に足を踏み出そうとする。
濡れて帰るのも仕方がない。全ては自分の失敗なのだから。
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