第8話

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~~~ 森野璃音は学校が終わると直接涙子の事務所までやって来ている。もっともここで彼がやることといえば、涙子とオル太郎の分の料理を魔力を含んだ食材を用いて作ることぐらいで、あとはただひたすら魔術の練習か、オル太郎と遊ぶかなのだが。 「……あれ?鍵かかってる」 森野が事務所の入口の扉を引くが、びくともしない。どうやら施錠されているようだ。いつもなら鍵なんてかかってないので森野は何かあったのかと不信に思うが、扉に貼られた一枚の紙を見て森野はその考えを改める。紙には達筆な文字でこう書いてあった。 『魔術を用いて部屋に入れ』 ご丁寧に通路の脇には魔力入りの水が段ボールで積まれていた。これで魔力不足の心配はない。 「うっわ、面倒臭。……はぁ、しょうがない。やるしかないなら、やりますか」 渋々懐から銀色のペンを取り出し、森野は魔術の構成を思案する。森野の魔術は鉄の生成。魔力量の調整を会得した彼に課された次なる課題は〝精密な形状の操作〟だった。今回のこれはそれを試すための涙子からの試験なのだろうと森野は推測する。 「……でも、写真とか何の資料も無い状況で合鍵って作れるもんなのか?」 不安が募る森野だったが、彼は気づかなかった。今、この建物の中には自分一人しかいない事に。彼の師匠も、双頭の番犬も、今はいないということに。
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