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やりづらいなぁ。
それが彼がこちらにやって来てから初めて抱いた感想だった。やりづらい。ラグビーボールでサッカーをやるような、テニスラケットで卓球をするような、服をきたまま泳ぐような、そんなやりづらさだった。今までは当たり前だったものが違うというのは、やはりやりづらい。
彼は元よりそうなると予想もしていたし、予備知識もあったので気構えはしていたのだが、それでもやはり違和感は大きかった。
「それでも、いい!」
だが、そんな違和感も彼の欲求の内の一つ。彼は心の底より沸き上がる快感に身を震わせる。
「よし。よしよしよしよし、よしっ!もっとだ、もっともっと知りたい!」
彼は見てみた。
彼は聞いた。
彼は触れた。
彼は味わった。
彼は嗅いだ。
彼は感じた。
彼は歩いた。
彼は走った。
彼は飛んだ。
彼は泳いだ。
彼は話した。
彼は読んだ。
そして最後に、彼は試してみることにした。
「ここでは僕の〝チカラ〟はどれだけの存在なんだろう。僕のこれは脅威で驚異な存在なのか。それとも取るに足らない不通で普通な存在なのか。試したい、試したい試したい試したい試したい!」
あっちでは僕の〝チカラ〟は一番じゃなかった。でも、こっちならどうなんだ?
彼は狂ったかのように、試したいと連呼する。否、実際に狂っているのだろう。
「あら~なら相手になってあげましょうか?」
明らかに自分に向けられた声に反応し、そちらに顔を向ける彼。そして彼が見たのは全身黒一色の服装に、華奢でもひょろくはなく。女性にしては背の高い、限りなく金に近い茶髪の髪を持つ魔術使い。
倉間涙子の姿だった。
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