第8話

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~~~ やりづらいなぁ。 それが彼がこちらにやって来てから初めて抱いた感想だった。やりづらい。ラグビーボールでサッカーをやるような、テニスラケットで卓球をするような、服をきたまま泳ぐような、そんなやりづらさだった。今までは当たり前だったものが違うというのは、やはりやりづらい。 彼は元よりそうなると予想もしていたし、予備知識もあったので気構えはしていたのだが、それでもやはり違和感は大きかった。 「それでも、いい!」 だが、そんな違和感も彼の欲求の内の一つ。彼は心の底より沸き上がる快感に身を震わせる。 「よし。よしよしよしよし、よしっ!もっとだ、もっともっと知りたい!」 彼は見てみた。 彼は聞いた。 彼は触れた。 彼は味わった。 彼は嗅いだ。 彼は感じた。 彼は歩いた。 彼は走った。 彼は飛んだ。 彼は泳いだ。 彼は話した。 彼は読んだ。 そして最後に、彼は試してみることにした。 「ここでは僕の〝チカラ〟はどれだけの存在なんだろう。僕のこれは脅威で驚異な存在なのか。それとも取るに足らない不通で普通な存在なのか。試したい、試したい試したい試したい試したい!」 あっちでは僕の〝チカラ〟は一番じゃなかった。でも、こっちならどうなんだ? 彼は狂ったかのように、試したいと連呼する。否、実際に狂っているのだろう。 「あら~なら相手になってあげましょうか?」 明らかに自分に向けられた声に反応し、そちらに顔を向ける彼。そして彼が見たのは全身黒一色の服装に、華奢でもひょろくはなく。女性にしては背の高い、限りなく金に近い茶髪の髪を持つ魔術使い。 倉間涙子の姿だった。
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