【標的】

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 緊張から解かれて、冷蔵庫の飲料水を手に取る。  ゴクッゴクッと冷え切った水が喉を過ぎる頃、部屋から地を這う様に風が湧き起こった。 (!!!!?) ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ…!!!!!  その音は、部屋を正面に捉えている私の背後から連呼していた。 バンッ!!! ベシャッ!!!  瞬間、水の入ったペットボトルが掌から離れた。  息を呑み恐る恐る、奇怪な音を発した方角にゆっくりと向き直る。  音の根源は、どうやら玄関のドアノブらしかった。  震える両脚を、汗ばんだ手で押えながら、扉迄一歩一歩進めて行く。  冷汗がボタボタ床を満たす。心臓の爆音だけが、静寂な部屋を制していた。  やっとの思いで扉の前に立つと、鍵が掛かっている事を確認し、震える手を戸に宛行(あてが)うと覗き穴に右眼を当てる。  すると何かが去って行った影がサッと過(よ)ぎった。  だがガクガク震える身体は、疲労と緊張と怪我のせいか極限迄達していた。  気付くと玄関に座り込み、朝を迎えていた。 。。。。。 プルルルル…プルルルル…プルルルル…。 (やはり繋がらない…。)  その日も、一日中携帯を握り締めていた。  そして何の解決も辿らぬまま、休養期間は過ぎ明日から仕事を控えていた。
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