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「それで、父さんと母さんは喜んで娘の門出を許した、と。」
「まぁ刹那ちゃんの学力なら高校なんてどこでも良い大学に入れるだろうし、刹那ちゃんの自由にしてあげようって。」
「自由、良い言葉だね。ある人にはあって、ない人にはない物だ。」
それがある人は今、僕の後ろで空になった皿を洗っている。
僕の分として作ったナポリタンにはラップがかけてある。
「お兄ちゃんとして、妹が一緒に暮らしたいなんて言ってくれるの嬉しくないの?」
「嬉しすぎて、さっき照れ隠しに実家に帰れなんて言っちゃったよ。」
照れ隠しって便利だなぁ。
本心まで隠せるんだから。
「そういう訳だから、これから仲良く暮らすのよ。あと、たまには連絡しなさい。じゃあね~。」
それだけ言い切ると一方的に電話を切られた。
「どう、諦めた?まだ現実と闘う?それとも私と闘う?」
電話の内容を察したのか、シュッシュッとシャドーボクシングの真似事をしながら刹那が言う。
「お前と現実は同義だ。そしてどちらにも勝てそうにないからやめておく。」
言いながら憂さ晴らしにクッションを投げつけておいた。
避ける気がないのか、ぱふっと顔面で受け止められる。
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