妹曰わく、現実は割と厳しい

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人は何故夢を見るのか。 どうやらこれには二つの学説が存在するらしく、一つは現実で起こった事象から必要とされる内容を記憶する為という説、もう一つは現実で起こった事象から不必要とされる内容を記憶から削除する為という説の二つであるらしい。 だが思春期にありがちな「社会に根付く固定観念に反抗する欲求」に乗っ取って、僕はこの学説を否定しようと思う。 夢は現実で起こった事象から必要とされる内容を記憶から削除する為にあるのだ、と。 人間が生きていく上で避けては通れない苦難や挫折、それらを抱えながら何故僕たち人間は80年も生きていく事ができるのか。 それは僕たち人間には忘却という便利な機能が備わっているからだ。 人は苦難や挫折を乗り越えなくとも、忘却する事で次の段階へ進む事ができるのだ。 だが僕らはこの忘却を意識的に使用できる訳ではない。 便利さの裏にはこういった影がある。 だから人間は夢を見るのだ。 夢は苦難や挫折を僕らから一時的に忘却させてくれる。 つまり夢は人を現実から解放してくれる。 故に僕らは夢を見るのだ。 「おはようお兄ちゃん、そしてご愁傷様。現実のお出ましだよ。」 「……これは夢だ。」 「いっそ悪夢なら良かったのにね。残念ながら現実です。」 どうやら僕にとって、悪夢より現実の方が悪夢らしい。 完全に忘れていた━━━訳ではない。 むしろ一片たりとも忘れてなどいない。 そう、今日から刹那との二人暮らしが始まるのだ。
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