谷底へ流れるもの

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 ジャケットの内側から煙草を取りだし口元へ放りこむ。小気味良い金属を鳴り響かせ、煙草の先端は赤く火を灯す。大きく吸い込み、肺を循環した煙は空へと放たれる。  ――あの爺さん。今日も来るかな。  やたら厳しい世間の目。喫煙者は文字通り煙たがられ、社会の隅へと追いやられる。環境破壊だとか汚染だとかで喫煙者は悪とされる訳だが、言わせて貰えばエゴだ。今の世界を作り上げた時点で破壊を繰り返してる人間自体を棚に上げ、良くもそんな事が言えたものだ。文明が進み、人間が住みやすい世界ほど悪と言えよう。  ――なのに、あの爺さんと来たら……。まぁ、絶対捕まるわけないからな。事実は楽しい、ちょっとしたエンターテイメントだ。  いずれにせよ、この煙草は絶対に取り締まらせない。肺に穴が空こうとも、癌になろうとも、止めてやるものか。  そんな事よりも、確実に狂い始めてる世の中に目を向たらどうかと思うくらいだ。
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