谷底へ流れるもの

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 自分に何かしらの感情を抱く人間には敏感だ。あの爺さんの感情は大きいからこそ、後ろに居ても判るのだ。  すれ違う顔には、何の感情も無い。肩が当たっても何事も無かったかの如く、通り過ぎて行く。自分も同じだ。全て中身が存在していないのだ。この煙の様に宙を漂っているのだろう。  進行方向の先に向かって指で飛ばし、それを靴底で踏み潰す。肺に居た煙は空へと昇って行った。  ――やれやれ。まだ緞帳は下がらず、第二幕の始まりって事か。  先程の視線は徐々に近付き、自分の歩みと同じ道筋で付いて来る。しかも、丁寧な事に、その姿を隠しながらだ。心臓から押し出される血液で脈拍は大きく高鳴り、股間のイチモツは膨張し始める。  ――女だ。それもかなり良い女。  イヤホンから流れていた靖幸を、ミッシェルへ切り替える。どこまで来れるだろか。見事、渋谷の外まで来れたなら……。身震いが止まらない。想像するだけで射精してしまいそうだ。
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