谷底へ流れるもの

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 足の向く先を駅へと方向を変え、一時、感情を無にする。街を歩く顔と同じ様に溶け込むのだ。脈拍とリズムが同調した頃、辺り一面はモノクロとなった。  銀座線のプラットホームに止どまる電車へ乗り込み、腰を下ろす。同時に感覚も戻る。車内のシートは一通り埋めつくされていた。  気配が無い。電車にまで乗り込むなら、当然、同じ車両にいるだろう。つまりは、見事に撒いてしまったわけだ。目を瞑ったまま上を見上げ、溜め息と同時に目を開く。  つまり、お楽しみは無いのだと思った時、横には女が座っていた! いつからだ!? いきなりの気配に不覚にも驚いてしまったじゃないか!  ――まさかな。同じ状態でついて来たとは。  ドアは機械音と共に閉まり、電車は動き出す。間も無く地下へと潜り、向かいの硝子は車内の照明によって鏡と化した。もちろん相手も素振りはない。だから細心の注意を払い、顔を確認したのだ。
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