されど彼は立ち止まらず

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 ――突如悲鳴が響き渡った。すぐ脇のセンター街から騒ぎが起きているようなのだ。たかが百メートル程の追跡で六十も過ぎた身体は肩から息をしていたが、群がる人の流れに身をまかせ、その悲鳴の元へと向かった。  携帯電話を片手に騒ぐ者。泣きながら後退りしている女の子。その騒ぎで人は人を呼び、一瞬にしてパニックとなった。 「なんじゃこりゃぁ……。死んでる! 頭をカチ割られ死んでる!」  命を引き取った人間は何度か見ていた。しかし、それは天寿を全うされたものであって、殺された者ではない。目の前の狂気は未だかつて経験の無いことだ。  程なく最寄りであろう宇田川交番より警官は現れて現場を仕切り始めたが、騒ぎは収まらず困難を極めていた。それから後に渋谷警察署から駆け付けた刑事らしき人物の指揮のもとテープやビニールシートが貼られ騒ぎも一段落した。
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