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500円硬貨を一枚入れ、風子はなにも言わずにボタンを押した。
ガコン、とジュースの落ちた音がして、彼女が先に取り出したのは苺オレだった。しかもホット。他の県にも、苺オレのホットはあるのだろうか。
俺は昔からこれが好きだ。知っているのは風子だけである。
自分もカフェオレのボタンを押し、同じく自販機から取り出して、風子はあたたかい缶を頬に押し当てた。
「仕方ないよね……そういうのは」
「悲しそう」というよりは、「なにも感じていない」ような声だった。
「なんでさー、いろいろ変わっていくんだろうね?」
「は?」
「大人になるたび、いろんなことを知るたび、いろんなことを変えていかなきゃならない。その流れに逆らっちゃいけない。……どうして? 変わることはいいことなの? 変わりたくないと思うのは、悪いことなの?」
「悪いってわけじゃねえよ。ただ、自然の流れってやつがだな……」
「ああ、それそれ。みんなよく言う。『これが自然』とか『これが普通』とか」
「…………」
自嘲気味に言う風子の口調が痛くて、俺は言葉に詰まった。
「『普通』って、なんなんだろうね? こうやってふたりでたんぼ道歩いて、あったかい缶ジュース買うのは、『普通』じゃないのかな?」
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