無題

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機械的に階段を昇り、2階へと上がる。 そして2階の第1展示場まで行き、準備中で閉まっている扉についているコンソールにパスワードを打ち込み、開いた扉から中に入る。 第1展示場は2日後に迫った[徳島県歴史展]への準備の為、内部では職員がいそがしく行き交っている。 抱えた段ボールを部屋の隅に置く。 「椛ちゃん、少し手伝ってくれないかー?」 男性職員の声が聞こえる。特にこの後予定もないので椛は手伝うことにした。 展示場にいるすべての職員と比べると、椛の赤い目はやはり少し浮いて見える。 だが、職員はその目の色を気にするそぶりも見せない。もう慣れているのだ。 むしろ、椛の赤い目は博物館内ではすでに[普通]となっていて、その目に驚くのは博物館に来た外来の人や、新人職員などだ。 博物館内では椛は人気がある。それはやはり椛の美貌からだろう。 椛は人工頭脳(AI)で展事物の配置を考え、段ボールから展事物を取り、押しピンでそれを固定する。その動きはやはりどこか機械的だが、確実で無駄が無い。 ある程度展事物を配置した時、先程の男性職員が声をかけてきた。 「椛ちゃん、立神がいますぐ展示倉庫に来いってさ。」 男性職員は耳にインカムをつけている。どうやら唯から無線が入ったようだ。 「分かりました。この後お願いします。」 そう言って椛は第1展示場を走って出ていく。 そして段を下り、外へでる。 外へでると、黒猫が1匹、椛の肩にピョンと飛び乗ってきた。 椛がここに来た時から懐いている猫だ。 外にでると必ずといっていいほど椛の肩の上に乗ってくる。何回下ろしても上ってくるので、椛のAIは仕方なく乗せておくように指示している。 その黒猫を肩に乗せたまま、椛は倉庫に走る。何ともほのぼのした光景だ。 そして倉庫の中に入る。中には唯が待っていた。
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