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夜は既に訪れていた。街の明かりは、ガヤガヤと夜を照らす。弱々しい星が月を探しているようだった。二十日余りの月は、まだその姿を見せない。
漸く、彼は顔を上げた。彼女の歌っていたエレジーが、彼の口からこぼれる。完璧なメロディーだった。
「ああ、そうだ」
ぴたりと歌は止み、代わりにぽつりぽつりと言葉が漏れた。
「器なら、私にも創れますね」
僅かに口角が上がる。狂っていると自嘲しながらも、彼は殊に幸せそうな笑みを浮かべた。
愛する人の名を呼んで、彼は空に手を伸ばす。宙に描くは魔法陣。彼が低く何やら呟くと、その軌跡は白く光った。
「まだ、休憩所へ行くには早いでしょう。どうか、私の元へ」
白い光が彼の手元へ集まり、やがて球状を成した。
「おかえりなさい、セレナ」
彼は満足そうに目を細める。
星が小さく瞬いた。しかしそれは、あまりに空と同化していた。恐らく、誰も気が付いてなどいないだろう。
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