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悲しげに目を伏せて、エレジーを歌う少女が居た。それは歌うというよりも、口遊むといった風だった。
デパートメントストアの屋上駐車場。シオンはまっすぐに彼女を見て、立ち尽くした。――一目惚れだった。
「風が、冷たいですねえ」
彼はふらりと彼女の前に現れると、何でもなさそうに、そう話しかけた。彼女は驚いたようだったが、苦笑とも微笑みともとれる笑みを浮かべた。
「冷たくていいんですよ」
彼女は言う。
「暖かい風を受ける資格なんて……」
ありませんから、と続けるつもりだったのだろう。しかし彼女の声は震え、その先の言葉をつむごうとはしなかった。
暫く沈黙が続くと、彼は愛しみを含んだ微笑みを見せて口を開いた。
「生ぬるい風なら、受け付けていただけますか?」
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