「素直じゃないなぁ」

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 耳をつんざくような大声に、睦月は肩を震わせて天井を見上げた。そこが大きく軋むのを見て、思わず顔をしかめる。ただでさえ古い建物だというのに、始終この調子ではいつか床が抜けるんじゃないかと、内心気が気でない。 「また、かぁ……」  知らず、今日何度目かの溜息が零れる。  原因は分かっていた……というか、分かっているからこそ、これからどうしようかと思い悩んでしまうのだ。  思考は何度も巡らせた。けれども、事態は一向に進展しない。自分は二人とも好きなのに、あの二人はどうして喧嘩ばかり繰り返すんだろう。 「もっと、仲良くしてくれればいいのになあ」  ぽつりと呟いた、その次の瞬間。 「誰がだい?」 「ひゃっ!」  不意に背後から声が聞こえて、睦月は驚きに身を竦ませた。恐る恐る振り返って、声の主を確かめる。見知った黒衣と金髪が目に入ると、頬にサッと朱が走った。  迂闊だった。背後の気配に全く気がついていなかった。しかも相手にはどうやら、呟きまで聞こえてしまったらしい。 「え、エル……もう、びっくりさせないで下さいよー」  相手の名前を呼び、自分より頭一つ分大きな身体を見上げる。慌てて笑みを作ってはみたけれど、恐らくはもう見抜かれているだろう。エルは微笑を浮かべたまま、いつものように優しく頭を撫でてくれたけれど。 「済まないね。……それで、誰と誰の仲が悪いのかな?」  案の定、問いを投げかけられて、睦月はグッと言葉に詰まった。 「え、ええっと……」  咄嗟に言葉を濁す。別にそのまま口にしても、エルはきっと怒らないだろうけれど、それでも本人の前で言うのは少々気が引けてしまう。その内容が余計なことかもしれないから、尚更。
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