序章:「やってきました新任課長…と、え?課長補佐!?」

2/37
前へ
/390ページ
次へ
 ―前の課長が辞任したのは、一月程前の事だ…―  静かなピアノ演奏を聞きながら、白髪の多々混ざる髪を角刈りにした渋系の、年の頃50代後半の男性は、手にしたグラスを傾けた。  カコロン―と、氷が濃厚な音を奏でる。  静かな、こ洒落たバーでの事。  カウンター席の片隅で、男はグラスを口から離すと、静かに細く息を吐く。  ―この道30年ともなれば、出会いも別れも数えきれない程あった……前任課長との出会いと別れもその一つだ………電撃辞任だろうが何だろうが、俺にとっては特別な事じゃあない……―  取り出した葉巻に火を灯し、一吹かしてもの思いにふける。  ―ただ……―  紫煙が、不規則に揺らぎ、立ち上る。  ―前の課長の方がやりやすかったな~僕ぁ― 「やかましい!!」  場違いに怒鳴る青年の額に浮かぶデッカイ青筋。  男性はふ~っと大袈裟な溜め息一つ。  ―やれやれ…これだから最近の若い奴は困る…ここはそんな大声を張り上げる場所じゃあない― 「うっせーよ!つかウゼーよ!!何ハードボイルド気取ってナレーション調に語ってんだよ!!」  ―ふ……ハードボイルドとは、固茹でたま― 「フツーに話せってんだよ!」
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加