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―前の課長が辞任したのは、一月程前の事だ…―
静かなピアノ演奏を聞きながら、白髪の多々混ざる髪を角刈りにした渋系の、年の頃50代後半の男性は、手にしたグラスを傾けた。
カコロン―と、氷が濃厚な音を奏でる。
静かな、こ洒落たバーでの事。
カウンター席の片隅で、男はグラスを口から離すと、静かに細く息を吐く。
―この道30年ともなれば、出会いも別れも数えきれない程あった……前任課長との出会いと別れもその一つだ………電撃辞任だろうが何だろうが、俺にとっては特別な事じゃあない……―
取り出した葉巻に火を灯し、一吹かしてもの思いにふける。
―ただ……―
紫煙が、不規則に揺らぎ、立ち上る。
―前の課長の方がやりやすかったな~僕ぁ―
「やかましい!!」
場違いに怒鳴る青年の額に浮かぶデッカイ青筋。
男性はふ~っと大袈裟な溜め息一つ。
―やれやれ…これだから最近の若い奴は困る…ここはそんな大声を張り上げる場所じゃあない―
「うっせーよ!つかウゼーよ!!何ハードボイルド気取ってナレーション調に語ってんだよ!!」
―ふ……ハードボイルドとは、固茹でたま―
「フツーに話せってんだよ!」
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