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「十四番、月村未城(つきむらみき)」
黒いスーツを着た男性教師の野太い声が広い体育館に響く。
「……はい」
髪が肩を越し、周りよりも明るい茶色の毛を靡(なび)かせながら立ち上がり、少し反応に遅れたが返事をした。その疲れているのか、という雰囲気を醸し出した声は教師数人の眉を寄らせる。
立ち上がった月村は、自分の中で出来る限り礼儀正しく歩き、壇上に上った。
入学式が行われている体育館には赤い絨毯が敷かれ、真新しい制服に身を包まれた数百人の生徒が座っていた。その生徒の後ろには保護者が沢山おり、ビデオカメラを構えている者まで居る。さらにその後ろにはブラスバンドが楽器片手に月村が話を始めるのを待っている。
月村は一度頭を下げて内ポケットに入っていた紙、原稿を取り出して口を開いた。
「本日、ここ、明名(みょうめい)高等学校に入学しま……」
春休みから登校されられて書いた新入生挨拶の原稿を読み上げる月村を横目に新入生で仲の良い者同士が静かに口を開く。
「この新入生挨拶ってさ、試験で一位だった奴やるんでしょ?」
「……普通そうじゃない?」
話かけられた男子生徒は仏頂面で受け答える。
「点数公開で四八○点だったお前何座ってんだよ」
「うるさい……あのチャラい奴満点だったんだよ」
「満点? 五○○点!?」
話しかけた男子生徒は驚いたのか少し声を張り上げてしまった。
「うるさいよ。でもそうなんだよ。俺が点数公開ん時『新入生挨拶誰ですか』訊いたら『満点の月村君です』だとよ」
そう話して肩を落とした男子生徒は先生の鋭い視線に気付き、顔を下げた。
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