ひとりぼっちのクリスマスは南国行きのパスポートでlet's go

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ふわり……ふわり 不思議と、ゆるやかな時間が流れている そこで俺は夢を見ているようだった。 そう……今俺は、「夢の中にいる」 何故か、はっきりとした意識を持っていた。 あたりを見回せば、一面真っ赤で…とくんとくんと、命の流れる音がする それは生きているものの鼓動であり、今までの何処よりも落ち着くことのできる空間だった 凄く暖かい、ここは―― ポン 「皆様、お疲れ様でした。これより当機は着陸態勢に入ります。シートベルトをしっかりとお締め下さい。」 目前のシートベルトのサインが点灯し、モニターが到着を伝える。 ――ああ、何時間眠っていたんだろう もぞもぞと毛布を膝まで下ろし体を立てると、すぐ右の分厚いガラスからは既に海が伺える。 現在位置を確認できるシート付属のモニターで見た最後の位置はたしか、沖縄あたりだった 「ゆずジュース……!」 そういえばJAL限定のあのジュース…… くそ、飲み逃した! 気がつくと夕飯もしっかりとテーブルにおいてある。 事前に頼んでおいた、ほうれん草クリームのフィットチーネセット。 透明なプラスチックの曇った蓋を外し、フォークを準備して、早速一口頬張る。 「……ん、うま」 エコノミークラスといえども普通に美味い。あなどれん、JAL。 他にも、セットにはサラダやデザート、チキンなど結構豪華なもの。 そこで、ふとデザートに目を送ると 「……あ」 チョコレートムースとおぼしきその深い光沢のあるブラウンの上には、一枚のホワイトチョコレートプレート。 そこにミルクチョコレートで描かれていた文字は 「Merry Christmas!」 ――そうだった。 そういえば、飛行機に乗ったのは12/25。 聖なる夜、クリスマスの日だった。 クリスマス仕様でも、なるほどおかしくない。 トマトソースのかかったパリパリ皮のグリルチキンを口へと運び、そのチョコレートムースに手をつける。 黒い小さなプラスチックスプーンでその柔らかいムースをすくい、舌で溶かすように味わった。 舌に広がった、ほろ苦い甘味と口どけのよい食感。 隣のシートでは見知らぬいい身なりをした老夫婦が鞄に広げたものをしまっている ――そうだ、ついに来たんだ 今日から10日間に渡る、俺の国外一人旅。 IN、バリ  
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